「隆也、今日部活何時まで?」
「9時まで。サッカー部終るの早いなだろ。先に帰ってろよ」
「うーん。わかった」



はオレの彼女で同じ1年7組。サッカー部のマネージャーをやっている。そう、は野球よりもサッカーがすきなんだ。なのに彼氏はオレだ。野球がすきなオレだ。

と付き合ってるのが野球部の奴らに知られたときは「なんでサッカー部マネージャー!?」と言われた。すきになっちまったんだから仕方ないだろとしか言い返せねえ。いや、そんなこと言わなかったけど。 あいつにも聞いてくれ。「なんで野球部キャッチャー!?」と。

同じ7組の花井や水谷はオレとがよく喋ったりするのを知っているから「やっとかよ」と言われた。・・・は?なんだよ、ソレ。お前らそんな風に思ってたのかよ、と気付くとなんだか恥ずかしくなった。 クソレフトのくせにムカつくんだよッ!


野球部が使うグラウンドとサッカー部が使うグラウンドは別だから放課後に会うなんてことは殆どない。

でも、サッカー部の奴らが部活を終えてチャリで帰ってくのが見えるとやっぱりいろいろ考えてしまうし、チャリが通る度にじゃないかとチラッと見る。部活に集中しねえと!夏大が始まんだぞ!

あいつは部活終ったんだな。今日も送ってやれなかった。って思うオレはどうなんだろう。オレらしくなくて笑えてくるぜ。


今日も野球部は9時に終った。

部室で着替え終わってチャリに跨ると、田島が「阿部ーさっき、あっちのグラウンドに阿倍の彼女いたぜ」と指差す。辺りは暗くて、それにこの距離じゃわからないが田島が言うんだ。とりあえず位ってみるか。

そこでオレは皆に別れを告げてチャリで第一グラウンドへ向かった。サッカー部はとっくに終ったはずなのに一体なにやってんだ。ちょっと、いや、かなり?イラッとしながらもチャリをこいだ。

目が届く範囲へ行くと確かにがいた。・・・やっぱりなにやってんだ。に気付かれないようにチャリから降りて近づいた。端から見たらボールに遊ばれているだけだ。 まあ、きっとリフティング練習でもしてんだろうけど。(今日の昼、リフティングが全然出来なくて泣きそう!って言ってたし。マネージャーでもリフティングするのか・・・?と疑問に思った)

このまま見ててもいいんだけど、なんかが可哀想になってきて盛大な音を立ててチャリをとめた。だが、よほど集中しているのか、それとも耳が遠いのか聞えていないようでそのままボールに遊ばれている。

はあ、と一つ息をはくと名前を呼んだ。オレに名前を呼ばれてパッとこっちを向いたせいで、ボールはの身体に触れることなく地面へ着いてバウンドした。



「うわ、隆也じゃん」
「なんだよ。居ちゃ悪いかよ」
「いや、全然。隆也に私がここにいるって気付かれないよなあと思ってて・・・ビックリした」




バウンドしたボールを抱えて小走りで駆け寄ってくる。どれだけ練習してんだ、こいつ。ジャージがかなり汚れてんじゃねえか。のん気に「あっちー」ってジャージをパタパタさせやがって。 田島が気付いたから良かったものの誰も気付かなかったらこの暗い中一人で帰るんだぞ!?お前、よく考えろ!



「なんで隆也、気付いたの?凄いね!」
「あー、田島が教えてくれたんだよ」
「田島くんが?そうなんだ!」



なんでそこまで頑張るのかはわからないけど、にもなにかあってのことだろう。よく頑張ってんなって褒めたら調子こきそうだからやめとくけど。



「まだ帰らねえの?」
「帰る!隆也待つってキャプテンに言ったらボール貸してくれたんだ。片付けてくるねー」
「おう」



「ついてに着替えてくるー!」と走りながら叫ぶにさっきと同じ返事をし、見送った。

ああいう姿を見るとマジでサッカーがすきなんだなって思う。がなにをすきになるかは勝手だし自由だしそこまで束縛したくないけど・・・野球にも興味を持って欲しいっていうのが本音かもしれねえ。 なんかオレ、バカみてえ。にばっかりバカだって言ってるけどオレもバカなのか・・・?

そんなことを考えてるとがまた走ってきた。お前、さっきはジャージだったけど今はスカートなんだぞ!!靴だってローファだろうが!!やっぱりがバカだ!



「お前なあッ!」
「ん、なに?帰ろう?」



ニコニコと嬉しそうに笑っているを見ると、なんだかどうでもよくなった。今に始まったことじゃねえからな。もういいか。今度は「帰ろうよー。帰ろうよー」とオレの裾を引っ張る。子供かよッ! わかったから、と言って一つ息をはくとまたにっこり笑ってオレのチャリへ走り出した。



「ほら、はやくー!」
「お前な、オレは疲れてんだぞ」
「私も疲れてるよ。あんなに頑張ってリフティングしたことないね」



オレがチャリに跨るとがオレの肩に捕まり後ろに乗る。そして、腰に手を回される。落ちないかどうか確認してグッと力を入れて一漕ぎ。 リフティングっていうよりはボールに遊ばれてたぞと言えば、「ボールが言う事きいてくんないんだもん」と正直に返ってきたことに少し驚いた。なんだ自覚あったのか。

でも、出来る回数は3回から6回に増えたらしい。へえ、頑張ってんじゃねえか。



「男子ってさ、体育でサッカーやるじゃん?」
「やるな」
「それで、リフティングのテストとかあるしょ」
「おー」
「なんで、みんなできるの!?サッカー部じゃない男子でもすごい出来るじゃん!なんで!?」



なんで!?とか聞かれてもオレにわかるわけないだろ。少なくともオレは野球部員なんだ、そんなことはそれこそキャプテンとかに聞いてみろ。



「お前さ、今度ああやってリフティング練習してオレ待ってるときオレらのグラウンドに来いよ」
「なんで?邪魔じゃない?」
「そんなに小さくねえよ。一人くらい大丈夫だろ」
「ホント?じゃ、行く!」





マネージャーは楽じゃない
(その方がオレが安心して部活に集中できんだよ)





080203 家長碧華
 タイトル提供:てぃんがぁら