30分程前から、前の席でうなっているやつがいる。期末テストが3日後に迫ってきているから、今日の授業殆どが自習になっている。流石にクラスの殆どが真面目にワークに取り掛かっていた。
そのうなっているやつも、なんだかんだいって真面目にワークをやっている内の一人に入っている。(オレはその内の一人には入っていない。ただワークを広げているだけだ)
はきっと、問題を見てもわからないのだろう。教科書を出せばいいのにと思うが、そこは負けず嫌いな性格のせいか、それとも教科書を持ってきていないのか。後ろで見ていて、飽きる事はなかった。
「つ、ばささん!もういやっ!」
うなるのを止めたのかと思えば、後ろを振り返ってそう呟いた。周りが勉強中だという意識はちゃんとあったらしい。うなっている方がうるさかったと思う。ハイ。と机から教科書を取り出して突きつけた。
わかんないなら教科書見るのが一番だから。それより、なんだよ翼さんって。さん付けって気持ち悪いな。
「そういう意味じゃない・・・!勉強がいやなの。特に数学・・・!」
「公式覚えればいいじゃん」
「覚えても使えない・・・」
ため息を一つついてワーク貸してみ。と今度は手を突き出す。教科書は再び机の中だ。ワークをオレの机に置き、シャーペンとケシゴムも置く。二人で一つの机を使う状態だ。
ワークを見ると一つの問題に何度も何度もケシゴムで消した後が残っていた。一応頑張っている痕跡はある。使う公式もあっている。
あっているがケアレスミスでキレイな答えが出てこず、間違った。と判断しているらしい。ただ符号間違ってるだけじゃん。マイナスとマイナス掛けてるんだからプラスになるでしょ。
「なんで定期テストなんてあんだろ・・・」
「なに?今回はずいぶんやる気ないね」
「遊びたいの。デートしたいの。見たい映画があるの」
「ふーん・・・?」
ペラペラとワークをめくる。解らない範囲と解る範囲がくっきりと分かれている。証明の問題は出来るらしく、完璧だ。解っていないケシゴムで消した後が残っているページを開き、この問題解いてみて。と指をさす。
いかにもいやそうな顔をして、シャーペンを持ちカチカチと芯を出して取り掛かる姿勢は見せた。普通証明の問題の方が難しくて嫌んなるんじゃない?可笑しいよ。なんで普通の方程式が出来ないんだよ。
なんでまたこんなテスト週間にデートしたいと言い出すんだろう。小遣いでももらったのか、バイトはしていないはずだから。
今度はうなりはしなかったが、遊びたい、デートしたい、映画みたい、とブツブツと呪文のように呟いている。呆れてまたため息が出る。顔を上げて俺を見てくる。なんでデートしたいの。と問う。
「なんか周りがテスト、テストってうるさくなって友達までなんか必死に勉強しちゃって遊べなくなると、余計遊びたくなるじゃん」
見るなっていわれると絶対見るやつだ、こいつはと心の中でも呆れる。まぁ、その気持ちはわかるけど。自分の彼女がここまで子供っぽいとは思わなかったな。
「翼はテストだからって勉強しなそうだし、ていうかしなくてもいいし。それなら私が頭良けりゃテスト週間デートできるじゃん!」
テスト週間中は早く帰れるしさ!とあれだけくもっていた顔がパッと明るくなる。オレだってテストが近くなればそれとなく勉強するし、そこまでこの学校をバカにしているわけじゃない。
こいつだって頭が悪いわけじゃないし(毎回上の下くらいの位置にいる。数学と生物が良ければもっと上がる)オレだってできるものならデートはしたい。部活が休みになるテスト週間。
これを活かせないのは仕方がないと少しだけ思っていた。
「せっかく翼が長期間休みなのにー・・・!」
シャーペンを机に放ってこっちまで転がってきた。落ちそうになったところを拾い上げる。
「あーあ。いい天気なのに私たちは学校でお勉強。ありえなーい・・・」と外を見て、もう完全にワークに取り掛かる姿勢は消えた。数学はテスト何日目だろうと考える。たしか2日目の2時間目。
生物は・・・4日目の1時間目だったな。
「じゃ、テストの2日目と4日目、オレとデートする?」
「なんで2日目と4日目?」
「2日目は数学、4日目は生物。頑張ったご褒美ってとこかな」
デートとご褒美の言葉に目を輝かせ「する、する!翼とデートする!」とおおきく頷く。だから、とオレは言葉を続ける。
「数学と生物がんばれよ?」
「がんばる!絶対赤点は取らないよ!」
再びシャーペンを持ち、ワークに公式を書き始める。「aは5だからaに5を代入して・・・」とやっと数学の授業らしい言葉が聞えてきた。平均点に届くよう頑張るよ。ではなく、赤点は取らないよ。ときたもんだ。
どれだけ数学と生物が苦手なのか丸解りではないか。「ねぇ、ねぇ、ここどうやるの?」と先ほどとはまったく違うやる気満々な目でオレを見る。
シャーペンでトントンとさしている問題は応用編のちょっと頭を捻る問題だ。とりあえず公式を書かせて説明する。「・・・うん?も一回」と頭に叩き込んでいる。
こいつは自分の頭で理解できないと、覚えられないという難癖を持っている。仕方ない、何度でも教えてあげようか。中途半端なことでは覚えられないのだ。
でも、覚えてしまえばすぐに忘れることもない記憶力を持っている。ソレを上手く利用すればいいのに、仕方がわからないと嘆いていた。オレが利用させてやるよ、ホント仕方ないやつだね。
心の模様はくもり
(そのうち晴れになるでしょう)
080206 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
タイトル提供:BIRDMAN:天気で5題