「!ちょっといいか!」
「ん?花井くんどしたの?」
なんだか険しそうな顔をして花井くんが小走りで駆け寄ってくる。誰か怪我したかな?倒れた?でも田島くんの大声、聞えなかったしな(そういうときは田島くんが「三橋が血ぃ出てるー!!」とか
「救急箱ぉー!!」とか叫ぶからすぐわかる)とりあえず誰かが怪我したわけじゃなさそうだから安心する。
それじゃ、なんで花井くんは険しい顔をしてマネージャーの私のところまで?千代もいるのに。
「阿部のやつすっげー怒ってんだよ。なんか知らないかと思ってさ」
「隆也が?・・・なんだろ。私は怒らせるようなことしてないけど」
あー・・・隆也のことですか。ソレは千代に言っても意味無いかもしれないもんね。でも、一緒に部活に来るときは怒ってなかったよね。
ちょっと口数は少なかった気がするけど、あんま喋る人じゃないから気にすることないし。なんだろ?グラウンドに来てからかな?
隆也の姿を探すと、三橋くんとブルペンにいた。三橋くんがいつも以上にキョドっているのが見てわかる。今、雷は三橋くんに落ちている。・・・かわいそうに。
「そっか。わかった。ありがとな。・・・あぁ、なんであいつはあんな怒って・・・」
「私がなんとかしようか?」
「で、できんのか?」
「わかんないけど一応彼女だよ?」
ブルペンに向かって、その世話の掛かる彼氏の名前を叫ぶ。ゆっくりと立ち上がり、文句を言いたげな顔で歩いてくる。練習相手がいなくなった三橋くんにお詫びの言葉を叫ぶと、首を縦に激しく振って答えてくれた。
「今練習中だろ?なんの用だよ」隆也の第一声はやっぱり文句だった。
「なにイライラしてんの?」
「してねーし」
いやいや、もう声がいつもと違うでしょ。それは心の中に留めておいた。雷を落とされるのは私でもいやだ。
確かにグラウンドに一緒に来るときは普通に隆也だった、はず、なんだ!なんだろ!どしたんだろ!
「ストレス溜まってんじゃない?」
「溜まってねーよ」
「じゃ、熱がある?」
「ねーし」
「あ、隆也熱ある」
おでこに手をあてると汗と熱が伝わってきた。いや、これは陽にあたってたからかな、とも思ったけれど汗が異常だ。今日はそんなに暑くない。隣で花井くんが驚いている。
そんな花井くんを見て、隆也がまたあの声で否定する。
「とりあえず、部室に寝かせてくる」
「ないって言ってんだろ!」
「隆也が意味もなく荒れる日はストレス溜まりすぎか熱がある日だって。私にはあたってもいけどみんなにはあたらないの。ね?」
反論なしで黙ったってことは、自分でも熱があるって自覚はあったってことかな?もっと早く気付いてあげるべきだったなー。彼女よりかはマネージャー失格な気がする。なんでか私が少し落ち込む。
この成り行きを三橋くんに伝えるよう頼むと花井くんは走ってブルペンへ向かった。隆也の怒りの原因がわかって安心したようだったけど、熱だとわかると今度は苦笑いをしていた。キャプテンはホント大変だね。
それより、私たちは部室だ。隆也の防具を全部外し、ベンチに置く。この困った癖みたいなものは、治らないもんかね。熱あったら大人しくなればかわいいのにさ。逆に怒り出すってどうなの。
冬は寒いからといって置いてあったタオルケットを隆也にかけて、私は戻ろうとしたときに名前を呼ばれたので立ち止まった。
「ありがとう、な」
お礼を言われたことに驚いて振り返ってみてみると隆也の顔はタオルケットで隠れていた。いいよ、かわいい隆也が最後に見れたから。と言い残して部室を出た。一時間後にまた様子をみにこよう。
早く治れよ、キャッチャー!ピッチャーが待ってるよ!私も待ってるけど!
怒りの雷
(かわいいオレってなんだ・・・。それってキモくないか・・・?)
080209 家長碧華(拍手だったものをアレンジ)
タイトル提供:BIRDMAN:天気で5題