私と彼と過去



現在5時32分。友達と遅くまで喋り、今バス停へ向かう途中。バス停まであと50メートル。今日はバス停に誰か立っている。 段々近づいていくと立っている人は1年前元彼の翼だった。・・・気まずい。

中学が一緒だから帰る方向、帰るバスが一緒なのは当たり前で。それにバス停には私と翼だけで、さらに気まずかった。 向こうも私に気付いたみたい。元はと言えば別れたいと言ったのは私で、翼は悪い事なんか全然なかった。 一緒に下校してくれたり、デートに誘われたりと楽しかった。だから「ごめんね」と一言言いたかった。

でも、いざ本人を前にすると言いたい物も言えないのが私。言うか、言わないかを考えていたらバスが来た。 翼の後に続いて乗り込みつり革を掴みボーっと外を眺めていた。





誰かが私を呼んでる気がする。このバスに知り合いなんて乗ってなかったような・・・。 いや、一人いる。一緒のバス停で乗り込んだ人がいる。そっと声のした方を振り向くと予想通りの人だった。


「つ、ばさ?どしたの?」


翼は二人用の席に一人で座っていた。


「ここ空いてるよ。座れば?」


隣に手を置き笑ってる。座ろうかどうか迷ったけど断る理由がないから座った。 たくさん質問来るかなと思っていたけど全然なくて。翼の声を聞いたのは、さっきの言葉だけ。 ちょっと悲しがってる自分が恥ずかしかった。


「ねぇ、。俺諦めきれない」


もう降りるバス停に近づく頃翼がポツリと言った。


「何が?」


緊張して喉がカラカラ。


が」


吃驚して言葉が出なかった。頭が追いつかなくて言葉が出なかった。


「ねぇ、聞いてるわけ?俺ともう一回付き合って欲しいんだけど。・・・もう絶対別れるなんて言わせない」


やっと頭が追いついてきて考える余裕が出来た。と同時にバスが止まり、バス停に着いた様子。


、降りるよ?」


翼に手を惹かれ運賃箱の所まで連れていかれる。その手がとても懐かしい感じがして、安心した。 そしてバスを降りる時には既に離されている手。ちょっとだけ寂しくなった。


「翼!」


少し前を行く翼の背中に呼びかけると、その場に止まった。


「私、変なとこで怒ったり、翼を傷付けたりしちゃうかもしれない。それでも良いの?」


たった少しの沈黙が怖かった。早く何でも言いから言って欲しい。


「・・・良いに決まってんじゃん。変なとこで怒るのも、俺を傷付けてると勘違いするのもなんだし」


・・・勘違い?


「俺、別に傷付けられたとか思ってないから。むしろ前よりの事好きになってる自信あるしね。ずっと俺に酷い事したとか思ってるみたいだったけど、それ、勘違い」


「知ってたの?知ってたなら早く言ってよー・・・」

「いろいろ聞いた。で、返事はOKと取って良いんだろ?」

「うん」



まさかこんな日が来るなんて思わなかった。夢かなぁー・・・とボーっと空を見上げれば綺麗な真ん丸お月様。


。ほら、帰るよ」


翼と私の手が自然と繋がれていて。私たちだけ、1年前に戻ったようだった。




 家長碧華