、人の話聞いてる?」
「ん?あー聞いてない!」
「・・・あんたね、普通聞いてなくても、聞いてたよっていうのが普通なんだよ」
「なに、は私にウソついて欲しかったの?聞いてたよーって言っても怒るくせに」
「聞いてないあんたが悪いんでしょ!」



学校も特にハプニングもなく(ちょっとつまんない)終って、今はと一緒に帰るバスの中。私たちは後ろから2番目の二人がけのイスに座っている。 この時間帯のバスはどれも学生で混んでいて、殆どが私と同じ学校の生徒だ。あ、前の方に同じ中学校だった子がいる!うわー話しかけたい。でも、遠いッ!

その子の隣には彼氏っぽい男の子が立っていてなんだか仲良くしゃべっていた。いいなあ、同じ方向なんだー。翼と私は方向逆だから同じバスに乗るってのがありえないもんなあ。

羨ましいよー!とバスの中で叫ぶわけにもいかないからなんとか押し殺してボーっとしていたら、に「人の話聞いてる?」と怒られたんだ。だから、聞いてないよ!って言ったらまた怒る。 もーなんなのさ、ー!の彼氏がどうしたの!かっこよくて良い人じゃない!そんな贅沢言わないの!そう言ったら「こそ贅沢言うんじゃないの!」って返された。

翼はそりゃかっこいいですよ。いや、コレは彼女の惚気とかじゃなくて!かっこいいんです。でも、マシンガントークを備えてる彼氏ですよ? ソレを他の男の子に向けてくれるならね、もう頼れる彼氏でかっこいー!ってなる。けど、翼はソレを普通に彼女の私に向けてくるんだからね!?はそのマシンガントークを受けたことないからそんなこと言えるけど! 恐いんだよ!?泣きそうになるんだからねッ!!

でも、私は翼がすきなんだ!惚れたら負けってやつはもう私のためにある言葉みたいさ。



「どうせ、また一緒に帰りたいなーとか思ってたんでしょ」
「・・・そーですよーだ」
「翼は海外のチームに入るの決まって身体作っておかなきゃならないんでしょ?それで部活に出るのは仕方ないでしょ」
「そうじゃない!ソレはもう引退したこの時季でも翼は部活に出ておいた方がいいよ!ソレは私も応援するよ。ソレじゃないんだもん!根本的な問題なんだもん!」



そう、根本的な問題だ。よくこのワードが出てきた私!これほどピッタリなワードはない!

一緒に帰るには2つのどちらかの条件をクリアしなくてはならない。1つ目は私が翼の家方面へ引っ越す。2つ目は翼が私の家方面へ引っ越す。うん、いたってシンプルで解りやすい。解りやすいが凄く難しい問題だ。 だって引っ越すんだよ!?翼と私の問題じゃない。もう家族全体の問題になっちゃってる。こんなの無理に決まってる。

はあとため息をついた私にが頭を叩いてくる。もうなにするのさー。の彼氏は今受験勉強で忙しいらしく、全然構ってもらえないみたい。でも、それも後ちょっとでしょ? いつかは終るんでしょ?私たちの問題は引っ越さない限り終わらないんだよ!と語ると更に叩かれた。結構、痛かった。



「ソレ翼にハッキリ言えばいいじゃん」
「そんなの言えるわけないでしょ。翼は部活に出る。別に私は待っててもいいよ、何時まででも。9時に終ったとする。それから翼はわざわざ逆方向のバスへ乗り私を送る。ちなみに定期がきかないのでお金がかかる。 そして、自分の家へ帰るため再びバスに乗る。定期がきくバス停へ行くまでまたお金がかかる。家に着く。何時になると思う!」
「・・・あんたってそんな考えてる子だったんだね。知らなかったわ」



翼に一緒に帰りたいって言ったら送ってくれる気がするんだ。もしかしたら「なんでオレが送らなきゃならないのさ」とか言われるかもしれないけど!

そんな私の我侭のために部活を休んだりしてほしくないし、帰りも遠回りせずに真っ直ぐ帰って身体を休めてほしいし。なんかよくわかんなくなってきた。結局私はどうしてほしいんだろう!



「じゃあ、私が翼に言ってあげようか」



が急に真面目な顔になって言った。「自分から言えないなら私が言ってあげるよ。ストレートじゃなくて、寂しがってるよって」こういうときは本当に優しいんだーって実感する。 いつもはそっけないのに私が困ってるときは何かしら助けてくれるんだ。そのことを解っているからと、に甘える自分は嫌だけど。と親友でほんとに良かった。

でも、いいんだ。今回の問題は自分で頑張るんだ!だから、も頑張って!と応援してあげたら「煩い。私はもうすでに頑張ってんの」と叩かれた。もう3度も叩かれてますけど。

そうかー・・・。私がにしてあげてることってなんなんだろうなーと漠然と考えてみた。・・・なんにも、思い浮かばない、ぞ。

バスのアナウンスが私が降りなきゃいけないバス停の名前を告げた。ボタンを押すとピンポーンと鳴る。に別れを告げ、運転手さんにお礼を言い私は一人で家へ向かった。





普段信じてもいないくせに、





「翼先輩ー。今日部活なくなりましたー」
「んーわかった。サンキュ」



今日の朝方から軽く雨が降ってきていて、昼頃にはもうドシャ降りになった。やっぱり部活はなくなった。大会も近くないし、休みにしてもいいだろうと判断したんだろう。オレは部活がなくなって残念だけど。

部活が休みになったと伝えてくれた後輩は今のサッカー部キャプテンで、あいつも部活がだいすきなやつだ。「なくなりましたー」と言ったときの顔が苦笑いだった。あいつも身体を動かしたかったんだろう。

そのキャプテンに呼ばれてドアまで行っていたが、窓側の自分の席へ戻る。そして、グラウンドを見つめていたら、がやってきて空いていたオレの前の席に座った。なんだか真剣な顔をしていて、少し驚いた。 いつもと一緒に居て、ソノせいかにツッコミを入れては笑っている。そういうイメージしかなくて、しかもがいなくて、こんな真正面でを見たのはもしかしたら初めてかもしれない。 と喋るときはいつもが隣にいたから。



「今日、部活なくなったんだって?」



ヒソヒソと言うに今度は不信感を抱く。一体どうしたんだよ。なにかあったならハッキリ言ってほしいんだけど。



「うん、そうだけど?ソレがどうかしたわけ?」
「それじゃ、帰るのね?誰かを送ったりする?」



誰かを何故か強調する。誰かもなにもオレの隣で寝てると帰ろうと思ってたんだけど。そう言ってを見る。机に突っ伏して相変わらず寝ているようだった。

オレのソノ返答に満足気に笑い(あーコレがいつものじゃん)「ならいいや」と言って自分の席へ戻っていった。なんなんだ?オレもと同じ体勢になり考える。は一緒に帰るじゃなくて送るって言ったよな? ・・・あー・・・が送ってほしいって結構前に言ってたな。でも、部活があるからいいやとかって笑って帰って行った記憶が。こいつもハッキリ言えばいいのに。なんで言わないんだよ、バカじゃないの?

授業開始のチャイムが鳴り、がゆっくりと起き上がる。ホントに寝てたらしい、オレとの会話はコレじゃ全く聞えてないな。がナイスアシストしてくれたってのに、当の本人ゴール前でスルーかよ。




「んー?」
「今日一緒に帰ろうか」
「え?部活は?」
「この雨で中止だって。さっきキャプテン教えにきてくれた」
「帰る!でも・・・途中までだもんねー」



そう苦笑いして、先生が教室に入ってきたのに気付いたは教科書を出してない!とカバンを漁り始める。教科書とノートを机に出して、教科書をパラパラとめくり始める。



「昨日どこまで行ったっけ?」



オレは苦笑いを向けられたことにちょっとイラッとして(なんで送ってほしいって言わないのさ)また、名前を呼んだ。教科書に向けられていた視線がオレと合う。



「学校からんとこのバス停までいくらかかるわけ」
「・・・180円、だけど」
「なんだ、往復で360円じゃん。安いし」
「なんで、そんなこと聞くの?」



いつの間にか教科書を閉じ、ノートは全く触れられないままシャープペンすら出ていない。先生はいつも通り初めの5分はただの世間話をする。 こんなの真面目に聞いても仕方が無いが、話の内容が面白い。とうちのクラスに人気がある。先生をソノ気にさせると初めの15分、授業が潰れたりする。



ん家まで行こうと思って」



オレは素っ気無く、とは全く逆の行動を取ってみた。昨日終ったページを開いて、ノートも今日書くところを開き、シャープペンもケシゴムも出しておく。 もちろん、先生の話などは聞いてもいない。ただ黒板の方を見てるだけで、耳はからの返事を待っている。





こんなときだけ神頼み
 (たった360円で彼女はなにを思い悩んでいたんだろう)





080212 家長碧華
 タイトル提供:てぃんがぁら