オレにとって修学旅行は何の楽しさを感じるものではなかった。4泊5日。4日間はテニスが出来ない
そして、京都の寺巡り。・・・つまんね
自分の家にも、小さいけれど寺はある。実際は今日は2日目。クラスのやつらも飽きてきている。
でも、今来ているのは金閣寺。どの寺よりも人が多く、寺自体も今までとは違った。
周りでは、日本語より外国語が飛び交っている。
中国か韓国の言語はわからないが、英語が飛び交っているのは懐かしい気分。
リョーマッ!という愛しい人の呼びかけで英語の世界に戻っていた頭が日本の世界へと切り替わる。
その声に耳を澄ませて
ガイドの説明を軽く聞き流し、隣でが写真を撮っているのをなんとなく見つめていた。
その二つが終わり、次の場所へ移動しようとぞろぞろとクラスが動き出す。
もちろん、オレもクラスの最後をとついていった。
オレの後ろをついてきていたはずだったが、人に流され少し遠くにいた。
オレを呼ぶ声は周りは煩くてもちゃんと届いている。
立ち止まると、後ろに居た日本人がオレを邪魔臭そうに見ている。
そんなことは関係なしに(睨み返してやったら、素早くオレを交わして通って行った)の方へ手を伸ばす。
なんとか人の波をかきわけてオレの手を握ったのを確認すると、少し強めに、でも優しくひっぱっていつもの場所、オレの隣へ。
「リョーマ、恐いッ!ここ、日本じゃない。外国語が飛び交ってるよ!」
「そーだね。日本人より多いみたい。この時季は仕方ないんじゃない?」
は英語が嫌いだ。頭が悪いわけではないが(上の中ぐらい、出来る方)何故か英語は嫌い。
テストの点数だって、80点以上は取っているし、苦手ではないらしいが、
本人曰く「テストの英語なんて、英語じゃない。暗記すれば出来ちゃう」。
だから、はリスニングに弱い。頭が変になる、と嘆いていたことがある。
周りの女子はオレが英語の授業で先生に指名され、仕方なく答えるだけでキャーキャー騒いでいるけど、はまったくの逆。
私の前でそんなキレイな発音しないで、と言われたことだってある。
「I love you.」と言うのもダメなんだろうか?
にとって今のここは、恐い場所なのだろう。
そして、金閣寺の背景は、木々が紅く染まっていて、確かにキレイだ。
(まぁ、まだ年寄りじゃないから立ち止まって見るほどの価値とかがオレにはよくわからないけど)
「はぐれないでよ、リョーマ?」
「それはの方でしょ」
「だから、リョーマの服掴んでる」
「なんで服なのさ。手、繋いでればいいじゃん」
どこを掴もうか迷って空中で彷徨っているの手を、オレは迷わず握りしめる。
すこし冷たいの手が気持ち良い。
手が冷たい人は心が暖かいって言うけど、本当かもしれない。
自分の手を握り締められ、はぐれるという心配がなくなったはえらくご機嫌で、未だに周りを飛び交っている外国語はシャットダウンされたようだった。
既にオレらのクラスのガイドは、どんどん先へ進んでいく。
かろうじてガイドが持っている黄色い旗が見えるので、迷う事はないだろう。ずっと一本道だから。
バスに乗り遅れる心配もなさそうだ。
ここを出発するのは、後30分程もある。
珍しく、出発する時刻を聞いていたのがここで役に立った。
「まずは、クラスのやつらに追いつくか」
「うん。みんなどこ?」
「あっちにガイドの旗が見える」
そしてオレはもうとはぐれないよう、手を繋ぎ、揺れる黄色い旗を目指した。
わざとゆっくりと、歩いて。
久しぶりにと二人きりになれた(周りに人は居るけれど、知ってる奴らは居ない)時間だ。
思わぬ思い出が、寺巡りで出来るとはね
070415 家長碧華