「藤代!裏に走れ!!」
「おうっ!」



そう言われて自慢のスピードですぐにトップスピードに入る。DFラインをよく見てオフサイドにならないようにだけを気を付けた。ここでオフサイドになったら意味がない。このパスが効くのは一度だけだ。 一度見せればDFに警戒されて利き目が半減する。

このままトップスピードで走るとオフサイドになる!スピードを落とそうとしたときに圭介くんからパスがきた。ナイスタイミング。これ以上ないというタイミング。そして、パススピード。 バウンドしたボールには逆回転がかかっていて、オレの足元に戻ってくるパスだった。パスを受けて鳥肌が立ったのは初めてだ。圭介くんはやっぱりすごい。こんなパスをあんな平然とした顔で出すんだから。

オレは打ちやすいところにきたボールをダイレクトで打った。パスを受けるときにGKの位置は確認した。ニアに蹴れば入る。直感だ。

ソノ直感に任せてオレは足を振り抜いた。無意識にボールをふかさないように気を付けていて、あ、オレ進歩したと考える余裕すらあった。 GKの重心とは逆のニアに蹴ったから、GKの手をかすめることもなくゴールネットに突き刺さった。



「うおっしゃぁあーっ!」
「ナイス藤代ー!!」



真っ先にサポーターのいるゴール裏へ向かった。サポーターに向かって拳を突き上げる。ソレに反応してくれるように藤代コールが起こる。

すごく興奮状態になってユニフォームを脱ごうかと思った。ユニフォームを脱いで、振り回したい!そう思ってユニフォームに手をかけると圭介くんの声が聞えた。



「藤代!脱ぐな!!ユニフォーム脱ぐな!イエロー出るぞ!」
「1枚くらいいいじゃん!」
「お前、次4枚目!累積!!」



イエローカードを4枚もらうと累積警告として次の試合に出ることができなくなる。オレはまだ1回も累積警告になったことがないから1試合の出場停止になるだけだ。(2回目になると2試合出場停止になる。 ちょーやっかい!)

オレは既に3枚もらっているのを知らず、圭介くんの言葉でびっくりした。ユニフォームを脱ぐとイエローカード1枚。これは今季から出来たルールだ。なんでこんなルール作ったんだよ!海外では脱いでも良いのに!



「次、東京Vだろ!お前の古巣!!戦いたいんだろ!?成長した姿を東京Vのサポーターに見せてやりたいんだろ!?」
「東京V戦は必ず出る!」
「じゃあ脱ぐなっ!」
「・・・せ、せーふ・・・?」



サポーターはまだまだ盛り上がっているが、オレは落ち着きを取り戻した。審判が近寄ってこない。イエローを出される気配もない!得点したことをカードにメモっている。大丈夫っぽい!



「はあ・・・。今のチームに藤代いなかったら困るんだよ。少しはチーム事情と自分の立場考えろ」
「ありがとうございますっ!」
「っし。ナイスゴール」
「ナイスアシスト!」



あとはこのまま試合終了のホイッスルを聞くことだ。オレは残り20分、イエローカードをもらわないようできるだけ気を付けた。前半でイエローをもらわないでよかった!ナイスオレ!フェアプレーオレ! 試合始まる前にフェアプレーの旗にサインしたのをちゃんと実行してるオレ!偉い!

圭介くんのあの言葉を聞いた後だ。気を付けないわけがない!でもFWだってボールを奪うために必死だし、相手にファウルしに行く。そこでイエローをもらわないかもらうかの境目を見極めるのが大事なんだ。 今日の審判はあんまり笛を吹かない人だ。プレーを止めないで流してくれる。とてもやりやすい審判だ。ちょっとのことじゃイエローなんて出ないとオレは読んだ。

その後もう1点追加して2点差に広げオレたちは勝った。もちろん、イエローカードはもらわずに。次の東京V戦も出れる!スタメンになる自信もある!



「圭介くん、今日2アシスト?」
「そーそー。調子良かったな」
「今日、圭介くんがピッチにいてよかったって思った」
「なんで?」
「オレが3枚貰ってんの知ってたから」



シャワーしてきて頭をタオルでガシガシ拭きながら圭介くんにホントよかったーと笑う。圭介くんはタオルを首にかけて「あーアレね」と言った。



「アレ、キャプテンと監督に言われてたんだよ。注意しとけって。バカらしいイエローはやめてくれって」
「ならオレに言ってくれれば」
「お前ゴールしたら喜びすぎて忘れんだろ。それに真っ直ぐサポーターんとこ行くからCBのキャプテンじゃ間に合わねえんだよ、お前に注意しに行く。だからオレにきたわけ、ソノ役割が」



なるほど・・・。オレ、頼られてんのか頼られてないのかわかんないな。きっと、頼られてるんだな!うん!だって、圭介くん「ゴールしたら」って言ったし。普通のプレーでイエローもらわないだろ、藤代は。 みたいに思われてたんだろうな!やっぱフェアプレーオレ!



「次、きっとブーイングで迎えられるぜ」
「・・・仕方ないッス」
「お前本当東京Vのことになるとテンション変わるなー」



圭介くんはもうチームのジャージに着替えている。オレのジャージ、オレのジャージっと。

チーム事情で移籍を決意してもソレがサポーターにどう伝わるのかはわかんない。オレが移籍して移籍金がチームに入って・・・とかちょっといろいろあるけど。そんなとこはサポーターは知らなくていいんだ! オレだってホントは移籍したくなかったし・・・!けど、うん!そこら辺は内緒!!内部秘密!



「だって!オレマジで東京Vすきだったんスよ!?」
「そんなの知ってるよ。藤代も大人になったよなー」



その内緒の部分を知ってる数少ない人物なのが圭介くん。圭介くんになら大丈夫だろ!って思って言ってみたら、やっぱり圭介くんはオレの気持ちをわかってくれた。ちょっと気持ちが軽くなった気がした。

サッカーをやってきてこんな風になったのは初めてだった。東京Vのチームメイトにもいろいろ話したけれど、全く関係ない人にはなしを聞いてみるのもいいと思った。ジュビロっていいチーム! あ、もちろん東京Vもいいチームだぜ!!



「でも、今はジュビロがすきだからいい!」



そうだ。いくら望んだ移籍じゃなくてもオレはジュビロ磐田の一員だ。愛着も湧いてきた。今はジュビロがだいすきだ!

このジュビロのプラクティスシャツもかっこよくてすきだ!サックスブルーもオレ似合ってると思うし!やっぱPUMAだよな!PUMA最高!(あ、別にPUMAと契約してるからPUMAの宣伝してるとかじゃないしッ!)



「おーおー!ソレ、フロントに言っといてやる。忠誠心たっぷりです、アイツ。って」
「ジュビーロ、磐田!ジャン、ジャン、ジャジャジャン!」



ロッカールームでもゴール後のようにテンションが上がってきて、ジュビロの応援歌を大声で歌う。もちろん、手拍子も入れて。オレってば応援歌もバッチリできちゃう!



「すいませーん!ロッカールームにサポーター入ってきてるんですけどー!」



圭介くんがいきなりドアを開けて警備員さんに向けてさけび出した。周りのチームメイトも笑って圭介くんにノッかってくる。「オレたちのスパイク盗みにきたんだと思いまーす!」そんなことしねーし! 誰もお前のNIKEなんて欲しくねーよッ!!(だってオレはPUMA契約選手!)

オレは慌ててドアに走ってって、ちがいます!ジュビロの藤代ですー!と叫ぶも警備員さんの姿なんて全然見えなかった。いるとしてもコーチや報道関係者ぐらいで、コーチも「また藤代か」みたいな顔してる。 どうしよう、新聞の記事にされたらー!!圭介くんたちのせいだー!「藤代大活躍もチーム内でイジメ」とかさー!えー!

・・・はめられた!!振り返ってみると、圭介くんたちは既に自分のロッカーに戻っていてもうリュックを背負っていつでもバスに乗り込める状態だった。え、ひど!オレまだソックスすらはいてないのに!やっぱりイジメだ!



「藤代、早くしろよー。特にお前早くプレスルーム行かないと取材受けてる間にバス出発するぞ」
「え、おいてかないでー!」



急いでソックスとシューズをはいてダッシュでプレスルームに向かった。取材を受ける前にバスの出発に間に合うくらいの長さでお願いしますッ!と言うと取材陣の人たちにも笑われた。





この町とチームを愛している
 (風祭助けてくれよー!)(将に近寄んな藤代ー!)





080320 家長碧華
 タイトル提供:てぃんがぁら