昨日、こういうスポーツコーナーを見た。ローカル番組だと思う。誠二が地元の東京ヴェルディに入団したばかりで"高校生No.1のストライカー"というキャッチフレーズみたいなもので囃し立てられている。 誠二もあの性格だから調子に乗っていないか心配なんだけど。

ちょっと前まで調子ノリ世代なんて言われていた世代(ゴール後のパフォーマンスが面白い。 若い頃しか出来ないなっていうパフォーマンスで)があったけど誠二の世代は"第二調子ノリ世代"とかって呼ばれるんじゃないかな。みんな個性が強すぎて実際に調子にノッてるのも何人かいるし。 その何人かに誠二が入ってるのは内緒にしなくてもわかっちゃうはなし。

まあ、そんなことは置いといて昨日のローカル番組。スポーツコーナーで誠二がインタビューを受けていて私はテレビの前でその様子を笑いそうになるのを堪えながら見ていた。 だって知り合いが有名でテレビに出たりしてたら笑っちゃうもんだよ?ちょっとかしこまっちゃって、普段はそんなんじゃないのにって笑っちゃうの。

誠二は結構素が所々に出てるけど。繕うのが苦手だからね。

「昨日入団会見をした藤代選手ですが」とか色々聞かれてソレに結構真面目に答える誠二。でもソレはある質問から変わった。



「彼女はいるんですか?」



興味津々といった笑顔で聞くインタビュアーのお姉さん。ソレに負けず劣らずの笑顔で笑う誠二。誠二の口からなんて言葉が出るのかが恐かった。だって誠二はもうプロのサッカー選手で有名人だ。

彼女がいたって表面上ではいないとか言わされるんだ。ソレはなんとなくだけど覚悟はできていて、でも嫌だから実際に会ったらちゃんと確認するんだ。誠二の彼女は私だからねッ!って。 そうならないのがイチバンいいんだけど。



「えーっと・・・募集中と言いたいんですけど、いるんですよ」



更にニッと笑う誠二はバカなのかなとも思った。そんな、言っていいことなの?私はイチバンいい方に進んで良かったけど!

ほら、お姉さんも「ええー!いるんですか!」ってビックリしてるよ。いや、あんだけかっこいいんだもんいるでしょ。(自分の彼氏をかっこいいと言って退ける私の強さ!)

もしかして誠二のこと狙ってたとか!?彼女いてショックとか?いても関係ないわとか?あのお姉さんの見方が変わったわ。誠二が帰ってきたら言っておこう。あのお姉さんには気を付けてって。 絶対私の被害妄想だろうけど。言ってもわかんないだろうけどね。

「なわけないだろ!オレちゃんといるって言ったじゃん!カメラの前で!」的な感じでお返事が返ってくるよ。

私がどんな気持ちになってるか知らないテレビの中の誠二は続けてこう言った。



「そうなんスよ。これ募集中って言った方が良かったですか?オレ嘘苦手なんで・・・。中学のときから付き合ってる彼女がいますよ!」
「それじゃ長いお付き合いですね」
「そうですねー。6年くらいですね」
「中学1年生のときからですか!?」
「そうですよ?」



さも当たり前だろうという顔でお姉さんを見ている。いや、いや、当たり前だと思えるのは私たちのことをよく知ってくれてる人でしょ。お姉さんとは初対面なんだから。私なんか会った事ないよ。 一方的に私は知ってるけどさ、お姉さんのこと。

最後はお決まりの「サポーターに一言お願いします」というもので誠二はばっちりカメラ目線で言ってのけた。「得点王を狙って頑張るので応援よろしくお願いします」と。 コレを見て新人がなに言ってんだって思う人いるんだろうな。まあ、私が誠二を全く知らなかったらそう思うだろうな。プロの世界甘くみてんじゃないのって。

でも誠二なら・・・って思うのは自分の彼氏だからだろうか。今までの誠二のプレーを観て来たからだろうか。少なくとも誠二がレギュラーだったチームは「得点力不足」という日本サッカーの課題に困った事はなかった。 ホントにエースストライカーだったんだ。頼れるストライカーだ。困ったら誠二にボールを繋げ、だ。

これから所属するのはプロのチーム。サッカーをしてお金を貰ってるんだ。今まで以上に厳しい目で見られて厳しい言葉を突きつけられる世界に飛び込んで行ったんだ。 いつも笑顔の誠二でも怒ったり泣いたり落ち込んだりするのかな。それでも私はいつも通りにしてればいいんだ。

私が誠二にとってどんなことを与えられてるかはわからないけど、元気になる方法は私しか知らないんだから。

でも、新聞とかに「またもノーゴール!藤代決定機逃す!」とか書かれたら怒るよ!記者に、お前らサッカーやってみろ!って。

そんな心配はしてないけどね。今、私が出来ることは料理を作って待つぐらいかな。栄養バランス考えなきゃならないんだ。そういうの習えるところないかなー。料理はできるけどバランスとかは素人だからね。 旦那になるかもしれない人がプロって大変だわ。同棲までしてんだから旦那になるよね、きっと。



「ただいまー!」



もう帰って来た!え、今何時?まだ5時にもなってないのに。居残り練習しなかったのかな。



「おかえり。早かったね?」
「雑誌の取材受けてそのまま帰ってきたから居残り練習しなかったんだ」
「また取材?最近多いね」
「注目されてっからね!」
「きっと山口くんとか郭くんとか、みんな注目されてるよ」



うーん、こんな早く帰ってくるとは思ってないからご飯準備何もしてないよ。どうしようかなー。冷蔵庫を覗いて考えていたら誠二が後ろから抱きついてきた。なに、どしたの。



「オレのために晩御飯考えてくれるのは嬉しいよ?こんな若い年齢でオレのためにご飯作ってくれるんだよ。めっちゃ嬉しい!けどさ、忘れてるでしょ」
「忘れてる?」



晩御飯はコレが食べたい!とかって言ってたかな?ハンバーグ?いや聞いてない。オムライスだっけ?ごめん、わかんないと正直に言うと誠二は膨れていきなりキスをしてきた。

あー忘れてた。おかえりのキスがやりたいとか言ってた気がする。子供じゃないのに幼くて恥ずかしい。



「次忘れたら・・・」
「忘れたら?」
「オレずっとに抱きついてる」
「・・・いや、ソレは無理でしょ。いくらなんでも」
「じゃあ、オレとテレビ出演ね!」
「は!?え、ちょっと、どういうこと!?」





嗚呼、今日も世界は美しい
 (アナウンサーの人に彼女との出演頼まれたからおっけーしてくる!)





080406 家長碧華
 タイトル提供:coral